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ケアまどニュース
『ACP』自分らしい最後の迎え方
最近は「終活」や「エンディングノート」など、人生の終末期に対して、「元気なうちに、自分で決めたい」という考えの方が増えてきています。
そうした中で、本人が望む形の終末期を迎えるためのサポートケア『ACP』が注目を集めるようになってきました。
しかし、死生観をあまり口にしない傾向のある日本人は、個人単位ではまだまだ「ACP」という言葉は浸透していません。
その一方、東京消防庁がACPを踏まえた方針を打ち出すなど、実際には少しずつ取り組みに対する動きもみせてきています。
1.「ACP」ってなんのこと?
「ACP」とは、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)を略した言葉です。
Advanceとは英語で「進む」「進行」といった意味があるのですが、いわば「症状が進行した際のケアを事前にプランニングしておく」ということを指し示した言葉と言えるでしょう。
主に欧米、カナダ、オーストラリアを中心に発展しており、「意思決定能力が低下してきた際のケア全体のプロセス」を示しています。
ACPには5つのプロセスがあるとされています。
(1)話題の導入と情報提供
主治医などが対応する第1プロセスでは、「何故、こうしたプランが必要なのか」という提案や様々な情報をやりとりします。
(2)話し合いをすすめる
対象者本人の希望や価値観などを深く掘り下げます。
(3)事前指示書の記載、話し合った内容の記録、代弁者の指名
DNRの指示書が必要であればそれを記載したり、意思決定能力がなくなった場合に誰を代弁者とするかを決めてもらいます。
(4)事前指示書や記載内容の振り返り、書き換えなど
記載した内容について、さらに振り返り掘り下げます。書き換えはいつでも出来るよう、この時点でも伝えておきます。
(5)希望内容を現場にて適応させる
この話し合いの中で聞いた希望内容を、現場で実際に活用できるよう対応します。
施設関係者の中には「DNR(Do Not Resuscitate)」とACPを混同されている方もいるかもしれませんが、DNRとは「蘇生措置拒否」の意思表示でしかありません。
そのため、「ACP」のようにケア全般を指すものではなく、ACPの中にこのDNRが含まれている、と考えた方がよいでしょう。
ACPは高齢者介護施設や有料老人ホームにおける「看取りケア」としても、非常に重要なプランとなりますが、看取りと一概に言っても、様々なケースがあります。
例えば、多くの高齢者様は死期が近づいてくると「食べられなくなる」といった症状が出てきます。
そうした際に胃ろうの増設をするのか、点滴だけしていくのか、あるいは「食べたい」と思えるものだけを介助で摂取していき、自然の流れを待つのか──「食べられない」というだけでも3つの選択肢が出て来てしまうのです。
ACPでは、そうした可能性を視野にいれた状態でケアをプランニングしていきます。
しかも、それは「一度決定したら終わり」ではなく、様々な状況を予測して医師や看護師、ケアマネージャーと何度も繰り返し行う話し合いのプロセスそのものを指しています。
事前にもしもの時のことを考えて準備しておくことで、状況を受け入れるための心の準備をすることも目的として含まれているのです。
2.介護施設には通達なし。戸惑いの声も。
ACPについては2014年から導入されていても、まだ実際に活用できる段階まで来ていない施設も少なくありません。
そんな中、2019年12月に東京消防庁がACPを視野に入れた新たな搬送ルールを開始すると発表しました。
内容は「蘇生を望まない終末期の人(DNRで本人の意思表示確認がとれている人)を対象に、蘇生や病院搬送を中止する」というものでした。
これを事前に知らされていなかった介護事業所も多く、突然の通告に騒然となった事業所も多かったことが推察されます。
現時点で東京消防庁以外に同じ姿勢を打ち出した消防庁はありませんが、おそらく今後東京消防庁に追随した形で新たなルールを導入する地域が出て来るでしょう。
しかし、介護事業関係者からすると、こうした発表に対して「確認書が出ているから蘇生を行わないと簡単に一刀両断出来るものなのだろうか?」と疑問に思う人も少なくないと思われます。
と言いますのも、こうしたACPに限らずDNRにおいても「直前で本人やご家族の意思が変わる」ということは、往々にしてあるからです。
医療従事者向けの緩和ケア研修会の中では、繰り返し「患者様の意思決定は例え今の答えが『蘇生拒否』であっても、直前で変わることがあるということを視野に入れておく必要がある」と述べています。
「それでは意思確認書としての意味がない」という意見もあるかもしれませんが、ACPにおいて大切なのは「『蘇生拒否』と本人が言った」ということを証明することではなく、
「本人が何を望んでいるかを優先し、その人らしい死に方を選択出来る」ということにあるはずです。
ACPの浸透においては、「個人の自分らしい最後を尊重する」という時代の流れと、実際にその状況に向き合っている「介護や医療の現場の現実」との間で、まだまだ課題は多く残されています。
3.標準化が簡単ではない理由
ACPが注目されつつも、実際には現場で活用できない背景には様々な要因が考えられます。
一番大きな原因として考えられるのは、「日本社会そのものが、死をタブー視している」ことがあげられます。
冒頭に書いたような「終活」として「自分の死について考える」ということが一般化してきましたが、それはごく最近のことであり、しかも多くの人がそうした意識にあるかといえばそうではありません。
また同時に、医療者が病気に捉われすぎているため、「患者の人生観や立場に寄り添えきれていない」ということを指摘している学者もいます。
本来ACPには「5つのプロセスがある」ということを明記しましたが、こうしたプロセスに則って介護事業者が「本人や家族の意思を傾聴できているか」と言えば、出来ていないところが多いのが実状でしょう。
その理由は、いまや介護事業は急激な高齢社会化に対応しきれていないため、一人一人の高齢者の方と向き合える時間がなくなっていることが理由のひとつとしてあげられます。
もしもACPがきちんと機能して、看取りの段階まで何度も本人が望んだ終末をご家族含めて話し合うことが出来ていれば、前述したような「直前で本人や家族の意思が変ってしまう」ということも減るかもしれないのです。
何故なら、「訪れるであろう別れの瞬間」を事前にイメージすることが出来るため、ご家族にとっても心の準備が出来るからです。
グリーフケア(遺族の悲しみや喪失感を緩和するケア)は疾患を持つご家族が生きている時からすでに行うべきとされていますが、ACPで話し合いに参加することも、このグリーフケアの一端であるということができます。
ご本人はもとより、ご家族が抱えやすい想い「もっと何かしてあげられたのではないか?」「本人が望むようにしてあげられただろうか?」こういった悔恨や葛藤についても、ACPを行うことで緩和することが出来るのです。
厚労省は2018年にACPを「人生会議」と呼称することを発表し、11月30日を「人生会議の日」と決めました。
またm愛知県名古屋市では「人生会議研修会」を開催し、名古屋全体における介護事業所でのACP活用を呼び掛けています。
ACPを運用する施設が増えることによって、死に向かうご本人やそのご家族の、死にまつわる苦痛の緩和ができることが期待されます。
おわりに…
日本人はとかく死について忌み嫌う傾向がありますが、死は終わりではなく、「人生の卒業式である」と捉えると、だいぶイメージや考え方が変わるのではないでしょうか?
それぞれの「人生の卒業式」が満足いくものであるようにサポートすることはとても大切なことと言えます。
これからの超高齢社会化に向けて、ひとりでも多くの高齢者様が「人生の卒業式」を満足いく形で迎えられるよう、介護関係者はACPについて理解や対応していくことが求められていくでしょう。
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