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2020/02/03
コラム

介護施設における『感染症』との向き合い方~インフルエンザ編~

介護施設や病院にとって、冬は「感染症対策強化月間」と言っても過言ではありません。入居者様や患者様はもちろんのこと、スタッフも予防をしないと大変なことになります。学校などでは「インフルエンザで学級閉鎖」といった言葉を耳にしたりしますが、実際に介護施設病院でも施設閉鎖(外部からの面会禁止)病棟閉鎖になることがある程、注意が必要です。

1.インフルエンザはなぜ冬に流行するのか

インフルエンザは「インフルエンザウイルス」によって起こる気道感染症です。インフルエンザに感染してから発症までの潜伏期間は約1~3日で、38度以上の高熱全身倦怠感に始まり関節痛や筋肉痛が突如現れ、咳、鼻水といった上気道炎症症状がそれに続きます。インフルエンザは、一般的な風邪と比べて重篤化しやすいと言われており、高齢者や基礎疾患のある方、小さな子どもにとっては注意が必要な感染症です。

1)インフルエンザウィルスが好む環境

インフルエンザウイルスにとって、増殖するための最適な条件とされているのが以下の条件です。

●温度:15度以下
●湿度:20%以下

すなわち、寒くて乾燥する冬の時期というのは、インフルエンザウイルスにとって格好の活動時期と言えるのです。逆に、高温多湿の夏の期間には、インフルエンザが流行りにくいのもそのためです。

実は、体内における『粘膜も、冬にはインフルエンザウイルスにとって都合のいい条件が揃ってしまっています。

冬以外は体温も湿度も保たれていますが、冬になると湿度が下がって空気や身体が乾燥することから、気道粘膜が損傷しやすいのです。そうした粘膜の亀裂からウイルスが侵入し、感染しやすくなるのです。インフルエンザが冬に流行る理由は、外気的な条件と身体における条件が両者揃っている時期だからと言うことができるでしょう。

2)インフルエンザの感染経路

インフルエンザの感染経路は、以下の2種類です。

●飛沫感染:くしゃみなど、ウイルスの核が水滴を伴った状態による感染
●接触感染:ドアノブなど、感染者が触ったものからの感染

湿度が40%以下の乾燥した部屋の場合、ウイルスは約30分もの間浮遊していると言われています。また、インフルエンザ感染者がくしゃみや咳した場合、飛び出すウイルスは1回のくしゃみで約100万個1回の咳で10万とされています。

介護施設や病院で勤務している職員の場合、家族がインフルエンザに感染した場合には職員本人が感染していなくても出勤停止となることがありますが、これだけの威力があると思うと納得せずにはいられません。

2.高齢者にとってのインフルエンザの危険性

ただでさえ重篤化しやすいインフルエンザですが、高齢者の場合には特に注意が必要です。

1)細菌性肺炎

インフルエンザに1番かかりやすい年代は乳幼児ですが、その次にかかりやすいのは65歳以上の高齢者で、恐ろしいことにインフルエンザが死因となっている年代も高齢者が多いという結果が出ています。高齢者の方にとってインフルエンザが危険な理由は、免疫力が下がっていることから重篤化しやすいということに加え、それをきっかけに細菌性肺炎を起こすことも多いからです。いまや肺炎は、脳血管疾患を追い越して日本人の死因第3位に浮上しています。その理由は、高齢者の方が(細菌性にせよ誤嚥性にせよ)肺炎で亡くなる方が多いからと考えられています。

2)全体的な機能低下

インフルエンザに感染したことで著しい体力低下脱水症状が起こり、それにより経口摂取が難しくなって状態が急激に悪化方もいらっしゃいます。本来インフルエンザは1週間もすれば症状が落ち着いてくる感染症ですが、高齢者の場合は長期化したり、それと併発して気管支炎などその他の感染症を引き起こすこともあるということが要注意なポイントです。

3)認知症のリスク

また、有料老人ホームなどの介護施設に入居されている高齢者の方の場合には、インフルエンザに感染することで他入居者の方と接触を断って隔離が必要になることから、認知症悪化のリスクもあります。

高齢者の方全体にとっては、インフルエンザに罹患することは健康上の大きなリスクが伴います。介護施設など集団生活を送っているところでは感染した高齢者の隔離が長期化することで起こるリスクなども踏まえた上で、感染が広がらないよう対処する必要があると言えるでしょう。

3.「自分の施設の施設は?」感染時の対応を確認

いざ感染者が出てしまってからでは「感染対策」は一気に難しくなります。では、施設ではどのような対策をたてているでしょうか?

先述したように、介護施設で生活をしている高齢者の方にとってインフルエンザは、大変大きな脅威となります。そのため、厚生労働省は「高齢者介護施設における感染対策マニュアル」を作成し、施設関係者に注意喚起を呼び掛けています。

このマニュアルでは「施設内で出来る感染対策」として、具体的な立案がなされています。

1)  感染対策委員会の設置

感染対策委員会は「施設内における感染症の発生や、発生時に感染拡大を防止することを目的」として設置が必要とされています。感染対策委員会は施設内での感染対策をたてる上で、以下のような項目につき活動することと規定されています。

●具体的な感染対策計画

●感染対策マニュアルの作成

●感染対策に関する職員への研修

●新規入居者の感染症既往の確認と、感染対策を含めたケアプランの検討

●感染症発生時には、事前に作成してあったルールに則って、適切な対応が出来るよう指示をする

2) 施設内の衛生管理

これは常日頃から注意しておく必要がありますが、インフルエンザ感染者が出た場合には特に注意が必要となります。ただし、実際のマニュアルに書かれている「自動水栓、足踏み式蛇口の設置」や「ペーパータオルの設置」「ゴミ箱は足踏み式」という点については、コストや使用上の安全性の問題もあり、必ずしも全ての施設で徹底出来ないものでもあります。足踏み式ゴミ箱は、入居者様が使いづらいことから導入出来なかったり、ペーパータオル入居者様が自室に持ち込んでしまうケースや、認知症の方がトイレに流してしまうなど、設置出来ないといった施設もあるでしょう。

その場合は、「アルコール消毒」することをお薦めします。ノロウイルスと違い、インフルエンザウイルスはアルコール(エタノール)消毒が有効です。インフルエンザに感染した入居者様がいる場合には、アルコール消毒(80%がもっとも効果的)で対応するとよいでしょう。また、感染リスクも「石鹸を使った手洗いを1日5回以上」することで3割減と言われており、さらに10回以上した場合は約半分以下になると言われています。ペーパータオルで対応できない施設の場合には、石鹸を使った手洗いを徹底するとよいかもしれません。

3) 事前把握が大事

以上のように、自分達の施設においてどのような感染時の対応が準備されているのかを確認しておくことで、緊急時の際の感染拡大を防ぐことが出来ます。施設によっては、人員不足で感染管理対策委員会を設置する余裕がないところもあるかもしれません。その場合でも、インフルエンザ感染者が出た場合にどのような連絡体系をとってどのような拡大防止対策をとるかについてまとめたマニュアルを一冊準備しておくことをお薦めします。いざという時に慌てることなく、感染を拡大することなく防ぐことが出来るからです。

また、都道府県や市区町村において、介護施設向けに「感染対策方法」について紹介している自治体もあるので、こういった資料をマニュアルとして設置しても良いかもしれません。愛知県名古屋市の場合には、高齢者介護施設向けに「新型インフルエンザ対策等の手引き」などがアップされています。

おわりに…

介護施設職員であれば、誰もが「無事、過ぎてくれますように」と祈らずにいられないインフルエンザ流行の時期。入居者様の安全を守る意味でも、平常時から感染対策を意識しておくことをお薦めします。「災害は、忘れた時にやってくる」ではありませんが、感染も油断した時にやってきます。インフルエンザ感染者が出た際には慌てることなく対応し、感染拡大防止が出来るよう準備しておきたいものですね。