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ケアまどニュース
住宅セーフティーネット
高齢化の進行は単に健康の問題だけでなく高齢者の生活環境にも大きな影響を及ぼしつつあります。
高齢者の世帯、とりわけ単身で生活するケースが増えており、孤立した環境が大きな問題となっているのです。
しかも平均寿命が延びたことで長い間単身で暮らすことが増えたことで、社会全体から孤立してしまうケースや、万一のときに対応が出来ないといった問題も浮上しています。
ある統計では今後10年の間に単身で暮らす高齢者の数が100万人増えるとも言われています。
そうなると孤立した環境だけでなく「高齢者がどこで暮らせばいいのか?」という問題も出てきます。
頼れる親族が居なかったり、居ても頼れない状況である単身高齢者でも、できるだけ安心して暮らせるような環境を探す必要があるわけですが、一方で高齢であればあるほど健康問題や保証人などの問題で入居を断られてしまう問題もあります。
このように単身の高齢者が安心して暮らす環境が十分に整えられていない一方で、空き家や空室は増加しています。このギャップをうまく活かして単身の高齢者の問題を解決できないか、そんな狙いから2017年10月から改正住宅セーフティネット法が施行されました。
この制度はいったいどのようなものなのか、単身の高齢者にとってどのような影響を及ぼすのか、重要なポイントを見ていきましょう。
住宅セーフティーネット制度とは
住宅セーフティネット制度とは、要配慮者が賃貸住宅を借りやすくするために用意された法律のことです。
この要配慮者とは高齢者をはじめ、障害者、被災者、低所得、子育て世帯を指し、賃貸住宅を見つけるのが難しい状況に置かれている人たちに安定した住まいを提供することを目的としています。
従来の住宅セーフティネット制度の土台を担っていたのは公営住宅でした。
低所得世帯が優先して入居できるなど、一定の条件が設けられていることで要配慮者が入居しやすい環境が整えられているのです。
現在でも公営住宅は全国各地にありますが、高齢化の影響もあって要配慮者の需要に対して供給が追いつかない状況になりつつあるのです。
先ほども触れたように単身で暮らす高齢者が増加していく状況において、公営住宅だけで需要をカバーすることはとても難しくなってしまいます。
そこで改正住宅セーフティネット制度では、民間の賃貸住宅が要配慮者を受け入れやすくするためのさまざまな仕組みが盛り込まれました。
これによって高齢者をはじめとした要配慮者の需要を受け止めきれるかどうか、愛知県や名古屋市でもこの制度を活用した賃貸住宅が増えていくのかどうか、今後の展開に注目が集まっている状況です。
制度の仕組み
制度の仕組みを簡単に言えば「民間の賃貸住宅が要配慮者の受け入れを積極的に行えば、国や都道府県が優遇しますよ」という制度です。
今回の改正の最大のポイントは、この要配慮者を積極的に受け入れる(入居を拒まない)賃貸住宅に対して、登録制を設けたことです。
これは各都道府県に対して行われるもので、この登録を行うことでさまざまな優遇措置を受けることができるようになります。
ただ単に「要配慮者を受け入れますよ」と表明しただけで優遇を受けられるのでは悪用されてしまう恐れがあります。
そのため登録の際にはいくつかの条件が設けられています。
まず入居者が安心・快適に暮らせる物件かどうか耐震性能が備わっていること、居住面積が25平方メートル以上あることなど、最低限の条件が求められるわけです。
老朽化した古い建物を登録してひと儲けしようといった、制度の悪用防止のための重要な条件となるでしょう。
加えて、登録することで得られる権利として、入居を受け入れる要配慮者の範囲をあらかじめ限定することが可能です。
要配慮者なら誰でも受け入れなければならないのではなく、事情に合わせて制限を設けることもできるわけです。
「高齢者のみ可能」「障がい者の場合は身体の障害の方に限る」といった形です。
これは必ずしもオーナーの側の都合によるものだけでなく、多くの人が暮らす集合住宅という形式を考えると妥当な措置といえるでしょう。
では登録することでどのようなメリットを受けることができるのか?これが改正住宅セーフティネット制度の最大のポイントといえるでしょう。
賃貸住宅が高齢者をはじめとした要配慮者を受け入れる上での大きなリスクが家賃の滞納です。この問題に対しては家賃債務保証の円滑化が行われます。
登録された賃貸住宅は万一入居者の家賃が滞納した場合には保証を受けることができるのです。住宅金融支援機構との間に「家賃債務保証計画」を結ぶことで可能になり、家賃滞納のリスクを最小限に抑えることができます。
さらに建物を改築・改修する際に支援を受けることも可能です。たとえば高齢者や障がい者が暮らしやすいようバリアフリー設備を導入するなど、要配慮者を受け入れるために必要な環境整備に対して支援を受けることができます。
これはおもに住宅金融支援機構によって行われるもので、資金を確保する際に通常よりも優遇された金利・条件で融資を受けることができるのです。
もうひとつ、生活保護受給者を受け入れる場合に関しては、毎月支給される生活保護費のうち、家賃に該当する部分に関して直接国がオーナーに支給を行うことも可能です。
これによって生活保護受給者が生活保護費を生活費に使ってしまい家賃を支払えなくなってしまうといった問題を解消することができるのです。
制度の現状と課題
このように高齢者をはじめとした要配慮者を受け入れる賃貸住宅に対してさまざまな支援・援助を行うことで、単身高齢者の住まいの確保と空き家・空室の問題を平行して解決することを目指した改正セーフティネット制度。これだけ見るとまさに一石二鳥の制度にも思えます。しかし実際には課題も少なくありません。
制度が施行されてから1年以上が経過した2018年9月の段階で登録されている住宅は4000件にも達していないといわれており、需要に対し十分とは到底言えない状況なのです。
空き家・空室の問題を抱えている物件はもっとたくさんあるはずなのにどうしてこの程度しか登録されていないのか?これが制度の現状と課題にもなっています。
制度そのものがまだ十分に普及していないのも理由として挙げられますが、知っていても登録をためらうオーナーが多い現状があるのです。
ではどうしてためらうのか?最大の難点は「入居を拒めない」という条件だといわれています。
登録の際に受け入れる要配慮者の範囲を定義できるとはいえ、その定義に当てはまる人は拒むことができない。この点をネックに考えているオーナーが多いようです。たとえば高齢者を受け入れるのはよいとして、その後、孤独死や認知症などによるトラブルを抱えてしまうと賃貸物件としての価値が下がるといった不安を抱えている面もあるのでしょう。
初歩的な問題ですが、そもそも制度自体が複雑でよくわからない、支援や補助を受けるにしろ新しい制度の活用を億劫に感じている人が多いことも普及が進んでいない原因として挙げられます。
このように単身の高齢者が安心して暮らせる環境を提供するという点で非常に大きな意味を持つ制度ですが、実際に効果がどれだけ現れているかについては微妙な段階です。
今後賃貸物件のオーナーの側がどれだけ積極的にこの制度を利用する気になるか、これがこの制度が普及し、メリットが社会全体に行き渡るかどうかを左右する最大のポイントとなるのではないでしょうか。
国として、高齢者の暮らしの拠点を施設からできるだけ住み慣れた地域で。というう方向に動いているなか、介護施設や老人ホームだけでは高齢化のニーズに応えられなくなっている面も含めて重要な意味を持つ制度となるのは間違いないでしょう。
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