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2022/02/07
コラム

介護職の賃金「現状」と、2月からの「賃上げ」でどうなる?

政府は2022年2月から、介護職員の給与の引き上げを行うとして、予算1,000億円を計上しました。

これにより、介護職の給与が月9,000円ほど引きあがる見込みとする一方、賃上げの対象となる職種については事業所が柔軟に運用できるとしています。

岸田首相は総裁選の時から、介護士や保育士、看護師、医師などの医療・介護従事者、つまり社会の基盤を支える現場で働く人材の賃金UPに向けて、公的価格のあり方を変えていくとSNSなどを通じて表明してきました。

しかし、本当に引き上げできるのかという疑問の声も上がっています。

1.介護職員の賃金は未だ平均を下回る

介護職員の賃金は未だ平均を下回る

介護職員の平均月給水準は、他業種と比べて下回っているのが現状です。

政府の2020年賃金構造基本統計調査によると、介護施設職員の月給(残業代等を除く)は平均23万9,800円です。

全産業平均は30万7,700円ですから、他の産業と比べ6~7万円ほど下回っていることになります。

その結果、高齢化が進む一方で、介護職員の不足という事態を招いています。

公的価格を引き上げ、社会保障を担う人々に分配していこうという動きが出てきたものの、月9,000円UPでは十分とは言えません。

 

さらに深刻な問題として、そもそも9,000円の引き上げすら難しいのでは、とも言われています。

介護職は人の生活や命を預かり、尊厳を守る重要な仕事なのに、なぜ給与がこれほど低いのか、疑問です。

その原因の1つが、介護職員の「専門性」です。

同じ医療福祉の分野であっても、看護師の平均月給は30万9,100円で、ほんのわずかですが、全産業平均月給を上回っています。

それに比べ、介護職は無資格や未経験者でも採用可能で、誰にでも務まるという間違ったイメージを抱いている人も少なくありません。

加えて、介護業界の主な収入源は提供する「介護サービスに対する報酬」です。

この報酬は明確な基準があるため、単純に利用する人からの徴収分を多くして職員の給与に反映することはできないのです。

2.賃上げの仕組みと運用ルール

介護職員の報酬引き上げ政策

2022年2月~9月、介護職員の月給賃上げ制度がスタートします。

2021年度末に、この新しい制度の支給・運用ルールが明らかになりました。

この新しい制度の名称は、2月~9月までの分については「介護職員処遇改善支援補助金」となります。

これにより、介護職員処遇改善加算、介護職員特定処遇改善加算と並んで、介護職員の報酬引き上げ政策は3つ目となりました。

介護職員処遇改善支援補助金制度の終わる2022年10月以降は、介護報酬の改定により、新たなシステムが導入されることになるようです。

介護職員処遇改善支援補助金の支給方法は、基本的に事業所による一括申請です。

個人で申請することはできません。

 

申請は国ではなく、都道府県に対して行います。

2022年4月から申請受付が始まり、補助金自体は2022年6月から順次、事業所に振り込まれます。

2月から運用されますが、申請は4月から支払いは6月からとなり、2月~6月の分までは事業所が先払いすることになります。

補助額は月額9,000円引き上げですが、補助額の2/3以上を基本給または毎月決まって支払う手当の増額に充てることになっています。

ですから、基本給、たとえば資格手当など固定されている給与に充てることになり、賞与に充てることはできません

ただし、申請期間が間に合わないため、2022年2月分、3月分に限っては、一時金での支払いが可能です。

 

申請は月額の賃金改善総額を提出することになっていますので、これまでの処遇改善加算と同じような申請方法になると見られています。

補助金が支払われた後、事業所はきちんと分配できているかを都道府県各自治体に報告することになっています。

この点も処遇改善加算と似ていますが、今回の処遇改善支援補助金制度の違うところは、全額国費で拠出されるところです。

つまり、2月~9月の分については、介護保険で抱えている財源を使いません。

課税か非課税かは今のところ言及されていませんので、所得税として引かれる可能性が0ではありません。

10月以降は介護保険の財源を使うことになりそうです。

 

支援補助金の交付率は、単純に職員の数×9,000円となるわけではありません。

事業所別の交付率を介護請求にかけて請求する形になります。

交付率は、事業所の種類ごとに加算率の設定が違うので、注意が必要です。

【訪問介護・夜間対応型訪問介護・定期巡回随時対応型訪問介護】

⇒2.1%

【訪問入浴・通所介護・地域密着型通所介護】

⇒1.0%

【介護老人福祉施設(特養)】

⇒1.4%

【介護老人保健施設(老健)】

⇒0.8%

 

3.職種による不公平感。1人当たりの実際の賃上げ効果。など疑問も残る

職種による不公平感

現在の政策では、事業所によっては9,000円満額UPとはならないところが出てくることになります。

人員基準よりも人を多く配置している事業所、あるいは利益が少なく介護請求額が低い事業所などは、一人当たり9,000円支給されない可能性があるからです。

さらに、常勤換算しての支給なので、パート勤務の場合はその勤務に応じた金額になります。

つまり、週3日しか勤務していなければ、4,500円が支給されることになります。

ニュース報道では、先に「介護職員の月給9,000円引き上げ!」という言葉ばかりが独り歩きしています。

そのため、職員からは「なぜ9,000円出ないのか」という不満が出てくることも予想されます。

 

今回の処遇改善支援補助金は公平性に欠けるとの意見が多く見られるのが現状です。

事業所は申請にあたり、処遇改善加算I~IIIのいずれかを取得していなければなりません。

処遇改善加算が取得できない事業所、たとえば訪問看護、訪問リハビリテーション、福祉用具のレンタル・販売、居宅介護支援、介護予防支援、居宅療養管理指導などの事業所は対象外となるため、賃金が変わらないことを意味しています。

 

ただし、事業所施設内に勤務している他業種であれば、たとえば事務員、栄養士、ケアマネージャーや介護助手などにも事業所の裁量で分配ができます。

それにより、同じ事業所内での他職種に就く人の不公平感は多少薄れるかもしれませんが、本来は介護職員に対して加算されるはずの金額が減ることを意味するので、介護職員から「不公平だ」と声が上がることもあるでしょう。

たとえば、1つの施設に介護職員が4名いれば、9,000円×4名で36,000円が支給されますが、ケアマネージャーなど他業種の人は原資に含まれないので、介護職員の分36,000円を施設内の事務職やケアマネージャーなどに分配することとなります。

介護職員の分配額は当然、減ってしまいます。

慢性的な人手不足の解消が賃金引上げの目的の1つであるはずですが、賃上げの規模が少ないこと、事業所や職種により不公平感があることなどから、人手不足解消効果は小さいのでは、というのが現実です。

介護職員の離職率が高まっていることを考えると、「現場職員の声を聴いて踏み込んだ議論を進めてほしい」という希望に応えて、踏み込んだ議論を進めることが大切でしょう。

【おわりに…】

愛知県名古屋市内の老人ホームなど、介護施設で働いている介護職員の方たち、施設従業員の方たちも、実際のところどれくらい賃金が引き上げられるのか、他職種の人はどうなるのか、気になっているはずです。この新しい制度には不透明な部分がありますし、2022年10月以降はどのように申請するのか、条件が変わるかなど、引き続き注目していきましょう。