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2021/03/01
コラム

2020年、介護系事業の倒産件数過去最多

新型コロナウイルスの猛威は、さまざまな分野に及んでいます。

福祉・介護業界も例外ではなく、2020年における「老人福祉・介護事業」分野の倒産件数がこれまでで最多となりました。

 

福祉・介護業界は深刻な人材不足に悩まされているうえ、2015年施行の介護報酬のマイナス改定経営悪化に影響を及ぼしていると考えられます。

そこに追い打ちをかけるように打撃を与えたのが、新型コロナウイルス感染症拡大です。

 

1.同業他社との競争や人材不足

人材不足

東京商工リサーチの発表によると、2020年における「老人福祉・介護事業」の倒産件数が、2000年に介護保険法が施行されて以降、最も多い118件となったことがわかりました。

また、倒産にはいたらなくとも、休業や廃業・解散へと追い込まれた事業所前年比15.1%増と2桁の急増となり455件。

こちらも過去最多を更新しています。

愛知県名古屋市の介護施設や老人ホームも、経営難に苦しむ所は少なくありません。

 

 介護業界は深刻な人手不足  

少子高齢化が進む我が国において、介護を受けるお年寄りの数は増加の一途です。

しかしその一方で、少子化による労働人口の減少も進み、人材確保が年々困難になっているのが現状です。

特に福祉・介護業界の人材不足は深刻で、多くの企業が人材確保に頭を悩ませています。

 

 人手不足の原因  

では、何が原因で人材が確保できないのでしょうか。

介護労働安定センターが2020年8月に発表した「介護事業所における高年齢者等の雇用に関する実態調査」の結果が以下の通りです。

採用が困難:90.0%

離職率が高い:18.4%

9割もの介護事業所が、職員の確保が不十分であることがわかりました。

 

 人材不足に陥る理由  

採用や離職率に苦しむ原因として挙げられた内容をみてみましょう。

同業他社との人材獲得競争が激しい:57.9%

他産業に比べて労働条件が良くない:52.0%

景気が良いため介護業界への人材が集まらない:40.9%

 

 労働条件に悩みを抱える人が多い  

介護業界は他の業界に比べて、労働条件が良くない傾向にあるとも指摘されています。

「労働条件に関する悩み」について、介護労働安定センターの調査をみてみましょう。

人手が足りていない:55.7%

仕事内容に対して賃金が低い:39.8%

身体的な負担が大きい:29.5%

有給休暇がなかなか取れない:27.6%

精神的にきつい:25.6%

 

このように、半数以上が「人手不足」を不満に感じているのです。

職場の人手が足りないが故に、現場スタッフ一人ひとりの負担が増大し、労働条件が悪化し、離職率が高まるという悪循環に陥っていると考えられます。

新たな職員の確保が困難な状況下において、離職率の高まりといった人員の不安定化が、経営計画に与える影響は甚大といえるでしょう。

 

また、平均賃金も他の産業に比べて低めです。

介護労働安定センターの調べによると、2020年11月時点の平均給与は23万4439円でした。

 

2.倒産の背景にはコロナの影響も

コロナ禍での倒産

倒産の背景として、新型コロナウイルス感染症が及ぼした影響も見逃せません。

 

介護施設には、新型コロナウイルスにかかると重症化しやすい高齢者が集中しています。

このため感染症対策は介護施設にとって、非常に重要な位置を占めます。

一人でも感染者が発生すると、そこから複数へと感染して「クラスター」となるなど、大きな危険に発展する可能性が高まるからです。

要因①: 業務負担の増大  

日々の介護業務に加えて感染症対策による業務負担が現場スタッフに重くのしかかっているのです。

職員の労働環境は、これまで以上に悪化しやすいリスクを抱えているといえるでしょう。

 

要因②: 在宅サービスの利用控え  

また、新型コロナウイルスの感染を避けるために、日中に通うデイサービスや、短期間だけ入所するショートステイ利用を控える高齢者が増加して収入が確保できず、それが倒産の原因ともなっています。

 

要因②: 感染対策コスト  

さらには、感染症対策に関する備品の購入、対人接触を極力避けるための設備の導入など、運営コストの増加もボディブローのように経営を圧迫していることでしょう。

 

新型コロナウイルスに対抗するためのワクチンが開発されるなどの取り組みが進められているものの、いつ収束するのか先行きは不透明です。

2020年の倒産件数最多事例に留まらず、2021年も新型コロナウイルス感染症の影響による倒産・廃業が増加するのではないかと懸念されます。

 

3.介護報酬の引き上げは立て直しの追い風となるか

介護報酬の引き上げ

2021年4月から、介護保険制度改正が施行され、介護報酬が全体で0.7%引き上げられるなど、さまざまなルールの変更が実施されます。

 

介護報酬は利用者の自己負担と保険負担の割合について3年に1度見直しが行われ、改定されています。

自社が提供する介護サービスの料金が変わるわけですから、介護事業者にとっては経営と直結する重要な制度改正です。

今回の介護報酬0.7%引き上げによって、介護費をおよそ800億円上昇させる効果があり、介護事業者の収入増が期待されます。

 

 介護報酬改定の5本柱  

介護報酬の改定については、5つの柱を設けて見直しが行われました。

①感染症・災害対策

②地域包括ケアシステム

③自立・重症化防止支援

④介護人材の確保と職場の改善

⑤制度の安定性と持続性

 

 注目はやはり「感染症・災害」対策  

今回、特に目玉となっているのが1つ目の柱である「感染症・災害対策」です。

感染症や災害が発生した際にどのように対応するかを想定した「業務継続計画」の策定などが義務づけられるほか、報酬決定の条件の緩和も行われます。

 

 柔軟な報酬決定  

現状、デイサービスなどの通所型サービスでは、前年度の利用者数によって報酬が決定されています。

しかし、今回のコロナ禍のような感染症や災害によって、利用者が減少することがあります。

このような不測の事態が起こった場合は利用者実績が見直され、利用者が減っても事業者の収入が大幅に落ち込まないため特例措置が設定されました。

 

 労働環境にも注目  

また、介護人材を確保するために、報酬や労働環境などの改善も実施されます。

リーダークラスの職員が、他の産業と同じ水準の賃金を得ることを目的に「介護職員等特定処遇改善加算」によって、現場に即した賃金改善ができるよう柔軟性を持たせたルールに変更されます。

これによって有資格者である介護福祉士や、勤続10年以上の職員多く働いている事業所は報酬が高まり、職員間の賃金バランスの不均衡・不公平の是正を促すのが狙いです。

 

また、賃金以外でも、職員の負担を軽減するために、見守りセンサーなどのICT機器の活用を推進し、このような機器を活用した場合には夜間の人員基準が引き下げられる見通しです。

 

賃金改善と同時に賃金バランスの不公平感をなくし、現場での業務負担を軽減することで、職員の職場満足度の向上が期待できます。

それによって職員の確保、離職率の低下が実現すれば、経営プランも立てやすくなるのではないでしょうか。

 

【おわりに】

コロナ禍が経営難を後押ししているとはいうものの、構造的な人材不足が大きな課題となっています。人材不足は経営者自らの経営努力だけでは立ちゆかない問題であり、報酬制度など国や自治体による経営改善の施策が求められます。今回の介護報酬の改定によって介護事業の経営安定や職員の確保地域包括システムの推進などが図られることで、人材不足やコロナ禍などの課題が少しでも改善され、経営悪化に歯止めがかかることが期待されます。