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介護と育児の両立「ダブルケア」
「ダブルケア」という言葉は、相馬直子氏(横浜国立大学准教授)、そして山下順子氏(イギリス・ブリストル大学講師)との共同研究で生まれました。
育児の負担と、親や親族の介護負担という2種類の「ケア」による負荷が同時にのしかかってくるという状態のことです。
この問題は今後、日本では直面する人が増える可能性が高いとされています。
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【Youtube】「ヤングケアラー」と「ダブルケアラー」
どうしてダブルケアが増えつつあるのか
大きな原因は、女性の晩婚化・晩産化とよばれる現象です。
厚生労働省の人口動態調査によれば、第一子の出産年齢は1975年には25.7歳でした。
これが2014年には30.6歳と、約5年も遅くなっている実態が見られます。
これには様々な原因があり、夫の収入が少なく子育てをするには厳しい状態であったり、女性が仕事をすることへの意識の高まり、保育所の不足などが挙げられています。
たとえば、30歳のときに生んだ子どもが成人したとき、自分は50歳になっています。いっぽう自分の親が25歳の時に出産したと仮定すると75歳、後期高齢者と呼ばれる年齢になっているわけです。
もちろん20歳の子どもは一般的には、家事労働の面ではそれほど手がかかるわけではない場合が多いでしょう。
ですが子どもが大学生で学費を自分が負担しているなど、経済的にはかなりの負荷となっている場合も少なくありません。
かつては家族におじいちゃん、おばあちゃんがいる家庭は、子育ての助けになるものとされていました。
お年寄りが昔ながらの知恵と経験によって、はじめて育児をする夫婦を助けるという「昔はよかった」式の話が語られ、それにひきかえ今は……と、都市化にともなう核家族化した「冷たい現代社会」を嘆かれる……そんな物語が語られていました。
しかし現代では、高齢者の存在は育児を圧迫しているのです。
ダブルケアの実態、問題点
2016年4月に内閣府が発表したダブルケア調査では、推計25万人の人がダブルケアをしているとされていました。
人口割合では0.2%に過ぎませんが、この調査ではトイレや食事の手助けといった身体的介護のみを介護行為としていますので、経済的な負担をしているケースや電話などを介して愚痴を聞かされるなどの精神的ケアを負担しているケースなどは無視されています。
ソニー生命保険が「ダブルケアに関する調査2017」を実施していますが、ここから現状を見てみましょう。
ダブルケアのことを、介護と育児の2つの負担が同じタイミングで発生する状況であるという趣旨を説明した上で、全国の大学生以下の子どもを持つ母親1,000名に対して行った調査があります。
これによると「現在ダブルケアに直面中」が3.3%であり、「過去にダブルケアを経験」が4.0%となっています。
そして「現在直面中で、過去にも経験がある」は0.9%です。
これらを合計すると経験率は8.2%となり、さらに「数年先にダブルケアに直面する」については14.4%でした。
これらを合計すると22.6%もの母親がダブルケアをすでに経験しているか、数年以内には経験することになります。
同様の調査を父親1050名にしたところ、ダブルケア経験者(過去・現在合計)は6.8%、「数年先にダブルケアに直面する」を加算すると12.7%になりました。
ダブルケアを負担するのは女性が多いとはいえ、半数程度の割合で男性にもかかってくる問題であると言えます。
男性にも半数程度負担が、といいましたが逆に言えば、女性に2倍の負担がのしかかっているということです。
要介護者と同居する主な介護者の比率を見ても、女性66%、男性34%となっており、やはり女性の2倍負担という結果になっています。
ダブルケアに直面している女性の平均年齢は41歳ころ。
夫も40代であることが多く、責任ある役職についている確率が高くなっています。
自然と夫が長時間労働になっていくため、ダブルケアについて夫の協力が得られない。
結果として妻の負担ばかりが大きくなるという現状があります。
ソニー生命の調査では有職者に対して「介護や育児を理由に、仕事を辞めたことがあるか」をたずねた調査では、男性が6.2%にとどまったのに対し、女性では27.3%と4倍以上になっています。
ダブルケアにかかる費用の問題を見てみましょう。
先述のソニー生命の調査によると、ダブルケアにかかる毎月の費用は平均して8万1848円。
介護される親などの年金・預貯金からの分担がまったくなく全額介護側で負担しているという人が、8.7%に上りました。
逆に親にかかる医療や介護の費用を親側で負担しているという人はせいぜい20%程度。
8割ほどは親の医療・介護にかかる費用を一部分以上、負担しているのです。
要介護5の人を介護する場合、在宅でも年間100万円以上の費用がかかると言われています。
子ども1人を大学まで行かせる場合、全て国公立の場合でも1000万円が必要とされており、子育て中の世帯にとって介護費用を追加負担することは大きな問題です。
現実的に進学の道が制限されてしまうケースも出て来るでしょう。
各地の取り組み
これまで自治体などの役所では、育児問題と高齢者問題の相談窓口が異なるなどの理由で「ダブルケア」として統一的に扱われないことが多く、結果として当事者がひとりで抱え込みがちでした。
しかし最近では、ダブルケアに対して総合的に取り組む地域も増えてきています。
<神奈川県横浜市の例>
「ダブルケア」という言葉そのものが横浜国立大学の相馬教授らによってつくられていることは冒頭で述べました。
問題研究のいわば発祥の地である横浜市では、はやくも「ダブルケアサポート横浜プロジェクト」が開始されました。
地元の金融機関と行政が、ダブルケア支援につながる事業の創業・経営を支援する体制が創られています。
また、「横浜ダブルケア研究会」も発足し、子育てや介護に対する地域包括ケアを論じる「地域社会の視点」、ワークライフバランスやテレワークを検討する「働き方の視点」、コミュニティ経済や生活サービス産業など経済的観点から問題をとらえる「地域経済の視点」など、様々な角度から問題研究が進められています。
<大阪府堺市の例>
堺市では2016年10月から「ダブルケア相談窓口」を発足。
育児と介護をばらばらに捉えるのではなく、ワンストップでダブルケア問題に対応できるようにしています。
これは「堺市ダブルケア支援事業」という総合的な対策の一環で、他にも子育て・介護による離職にかんする調査、ケーブルテレビ番組などを利用した広報活動を行っています。
また、ダブルケアの方が体調不良等で一時的に介護ができなくなった場合などに、原則30日以外の短期で特別養護老人ホーム等へ入所させるなどの対策も取っています。
<岐阜県の例>
岐阜県ではダブルケアを現在している人や、今後ダブルケアに直面する可能性のある人に対して知識を提供する「ダブルケアハンドブック」を作成しています。
制度紹介や応援メッセージだけでなく、各支援機関や相談窓口の連絡先、介護保険サービス、介護休業をはじめとする仕事との両立支援制度についての説明など、非常に実用的な内容となっています。
また、市町村が介護保険の制度外でおこなっている配食サービスや紙おむつ費用の助成制度なども紹介しており、県だけでなく市町村のサービスについても知識提供されています。
ダブルケアについては、まだその対策は始まったばかりです。
地域ではまだまだ、育児について、介護について、あるいは介護離職について、という形で対応されているところも少なくありませんが、今後ダブルケア問題が認知されるにつれ、行政や民間でも対策はどんどん広がっていくことでしょう。
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