

少子高齢化が日本全体で深刻化しており、その中で介護職の需要はさらに大きくなっています。
介護の現場で働く人たちの負担が大きくなれば、その分「介護事故」が起こるリスクも上がります。
介護事故は、なにも愛知県名古屋市のような人口の際立って多いエリアだけに限りません。
残念な事態の発生を少しでも避けるため、介護事故に対するリスクマネジメントの重要性が介護の現場において再度注目されているわけです。
ただ、リスクマネジメントについては、各施設や職員によってかなりの温度差があります。
そうした状況を打破し改善するためには、介護事故に関する情報の共有が不可欠です。
介護施設や老人ホームで起こる事故のうち、およそ4割を占めるのが転倒および転落事故です。
ベッドから起き上がるタイミングや、トイレから立ち上がるタイミングなどにバランスを崩してしまい、転倒してしまうというケースは珍しくありません。
特に、多くの施設で、朝や夜中は職員の数が少ないため目が行き届きにくく、利用者さん自身も判断力や身体機能が鈍る傾向があります。
そのため、施設内を移動中に、手すりをつかみ損ねることで、転倒や転落事故が起こるということもあるのです。
加えて、車椅子の乗り降りをする際に起こる事故も散見されています。
車椅子を必要とする高齢者に関しては、基本的に介助の職員もしくは家族が付き添っているとはいえ、ちょっと目を離したすきにバランスを崩すということが少なくありません。
また、認知症により、そうした危機管理が自分でできないために、無理に動こうとして怪我をすることもあります。
こうした転倒や転落によって骨折してしまい、そのまま寝たきりの状態になってしまうというリスクが常に伴います。
誤飲や誤嚥も、高齢者には多く見られる介護事故です。
食事の際の誤嚥リスクはもちろんですが、実は、薬の誤飲によるトラブルは少なくありません。
薬の服用時は職員が付き添っていて、「事故は起こらないのでは?」と感じる人もいるかもしれません。
しかし、高齢者施設では、1人の職員が大勢の高齢者をサポートしていることもあります。
薬の種類や錠剤の数を間違えてしまうという事故は、人間が行っている以上、起こらないとは限りません。
また、服用させるタイミングを間違える、他の仕事に気を取られてしまい薬を渡し忘れる、ということも起こっています。
薬を飲むタイミングや量に関するミスは、持病を持つ高齢者や体の抵抗力が低下している高齢者の健康を害するリスクがあります。
ですから、複数の職員によるチェック体制が必要とされています。
誤嚥は、特に食事中に起こりやすい事故です。
喉や食道の筋肉が衰えて物を飲み下す機能が低下していると、食べ物が気管に入り込んでしまうことがあります。
高齢者の場合、その異物を排出する力が弱くなっているため、そのままのどや器官を塞いだ状態が継続してしまい、呼吸困難を引き起こすのです。
また、異物が肺にまで到達すると、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
誤嚥に気付いたら、背中をたたくなどしてすぐに吐き出させる必要があります。
しかし、気付くことができなかったり、吐き出すことができず詰まったままになると、そのまま意識を失ってしまい、処置が遅れたため死に至ったというケースもあります。
高齢者が食事をしている時、職員は自分で食事が摂れる高齢者についても、十分に注意を払う必要があるのです。
介護事故のリスクマネジメントを行うためにはどうするのか。
単純に事故件数の推移を見るのではなく、データの集計方法を細分化して分析することが不可欠です。
「事故が起きたタイミング」
「その時の周囲の状況」
「事故の要因」
「事故を起こさないための対策」
など、細かくチェックしていく必要があるでしょう。
例えば、転倒事故が起きた場合、下記のように分けて分析していきます。
「どこで転倒したか」
「職員と一緒にいたのか否か」
「筋肉の衰えによる転倒か否か」
そうすることで、転倒が起こりやすいシーンをより具体的に理解できるため、対策を講じやすくなるでしょう。
それらの対策はすべてマニュアル化して施設で働く全職員の間で共有・運用することが大切です。
「事故を無くしましょう」
というよりも、
「こういう場面には事故が起こりやすいので注意しましょう」
という方が転倒事故のリスクを下げるうえで、より具体的にイメージしやすく効果的でしょう。
老人ホームや介護施設では、職員がどれほど注意を払っても、事故を完全に防止することは不可能です。
介護の現場では、「普段のその人からは想像もできない事故」というのは珍しくないのです。
ですから、それぞれの事故を分析する際には「防ぐことが可能な事故だったか否か」ということを明確にしましょう。
リスクマネジメントにおいて大切なのは「防ぐことが可能な事故を起こさない」ということです。
【厚生労働省】では、介護事故の減少を目指す取り組みの一環として、各介護施設に安全対策担当者を常駐させることを規定しました。
これは2021年4月よりスタートする新たな取り決めであり、半年間の移行猶予期間を経て完全施行されるものです。
ほぼ全ての【介護施設】を対象に、選定義務が適用されることになります。
安全対策担当者を設置していない、あるいは対策が十分ではないとみなされた介護施設は、国から支給される補助金の減額など、厳しい措置が取られる予定です。
安全対策担当者は、介護事故のリスクマネジメントを行う専門家として各施設の安全対策マニュアルを精査して、国が定める基準に合致するよう調整を行っていきます。
また、実際に介護事故が発生してしまった場合、現場責任者として先導して事故の原因究明と再発防止のための対策を講じたりすることも期待されています。
加えて、「新型コロナウイルス対策」に関連した衛生管理でも積極的な措置を講じることで、施設のクラスター化を防ぐという効果も見込まれています。
2018年の時点で専任の安全対策担当者を任命している介護施設は、全体のおよそ5割にとどまっています。
今回の改正によって、安全対策担当者を義務化することにより、介護施設の安全性向上と、事故件数の減少が期待されています。
ただ、安全対策責任者となるための研修はどのようなものになるか、基準を満たす介護施設に国から優遇措置は設けられるのかなどに関してはこれから継続的に情報が開示されていくことでしょう。
日本の社会において、介護施設が果たす役割の重要性はこれからますます高まっていくことでしょう。
ただ、労働人口が減少していく中で、介護職員1人1人にかかる業務の負担は膨らむことが予想されます。
そうした状況の中で、介護事故のリスクマネジメントを行っていくためには、情報の詳細かつ適切な分析を行い、必要な対策を講じることが欠かせません。
また、介護を受ける側だけでなく、「介護を行う人たち」が、安心して介護を行える環境と体制を構築していくことが必要です。
労働環境が悪化により、離職者が増えてさらに介護事故のリスクが高まるという負の連鎖を避けるためには、国や地方自治体による継続的なバックアップを受けられるかどうかが課題となるでしょう。
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